悲しみが塗り替えられた日

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「誕生日なんてなくなれば良いのに…」

 

妻にポロっと漏らしたことのある言葉でした。

 

本来嬉しかったはずの誕生日。

 

ここまでの三十数年間、たくさんの人に祝っていただき、もちろん素晴らしい思い出がたくさんある日。

 

でも私にとって切ない記憶が再現される日でもあった。

 

ある幼き日の誕生日。

 

「僕はこれが欲しい!」

 

その人は、

 

「あれならいいよ」

 

と笑顔で応えてくれた。

 

嬉しかった。
でも悲しかった。

 

「どうして聞いてくれないの?」

 

本当はそう言いたかった。

 

でも良い子という期待も裏切りたくなかった。

 

それは繰り返された。

 

そんなとき、心の中でいつも小さく小さく呟いていた言葉。

 

「人生こんなもんだよね…」

 

悲しまない為には望まないこと。

 

親しい友人達によく言われた言葉は、

 

「お前は風のようなやつだ」

 

「いつも遠くから見てるみたいなやつだよな」

 

「来るもの拒まんけど、去るのも追わんよな」

 

本当はもっとリアルに生きたいし、近くに居たい。誰にも去ってなんて欲しくない。

 

でも私にとって望むのは危険なこと。

 

良い子ではなくなること。

 

だから僕はいつも大丈夫、悲しいことも、腹を立てることもない。

 

そんな生き様。

 

ポロっと呟いた後で、

 

「私が人生最高の誕生日を贈るから!」

 

妻が言った。

 

一番好きな食事。


煮込みハンバーグ。

 

手作りのチョコムースは、人生で一番好きなケーキになった。
まさかこんなものが手作りでできるなんて思ってなかった。
コーティングのチョコに厚みをつけるために何度も何度も腰の痛い身体で、チョコをかけ続けてた。

 

翌日はフランス料理。
食べたことのないものばかり。
口の中で深い味と香りが爆発する。

 

プレゼントのバッグは一番欲しいものに納得いくまで、ネットもたくさん見て、お店もたくさん見てまわってくれた。


「全てに一番だと言わせてあげたかった」

 

そう言ってくれた。

 

こんなことなかった。

 

受け取った手紙には、

 

「命ある限りこの日を共に祝福したい」

 

と書いてあった。

 

人生にこんな日はなかった。

 

ありがとう。

 

ありがとう…。

 

なくなれば良いと思ってた日は、これから何十年も楽しみにする日になった。

 

この人には離れて欲しくない。

 

僕はそんな危険な望みと共に生きよう。

 

夜、今まで感じたことのない柔かい重みが嬉しかった。

 

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